その日の夜は22時に25時半まで仮眠してからゆっくりして風呂に入った後、だいたい5時頃に布団に入った。
既に外は明るくなっていたのでカーテンを閉めて眠った。
最初に普段と同じ様な夢を見た。
母親が作ったビジュアルノベルをプレイする夢。
途中いくつかの選択肢がでてきたりして、プレイを進めていた。
夢の中では認識していなかったが、文字と思われる画面上の白いぐにゃぐにゃは読めるものではなかった。
プレイ中に音楽が鳴った。
それは紛れもなく月姫の「月下」だった。
そこで「おいなんで母親のゲームに月下が流れるんだよ!これ夢じゃねーか!」とツッコミを入れたことでこれが夢の中だと気が付いた。
その瞬間、自分がモノクロの狭い室内に居ることを認知し、まるでVR越しの世界のような夢とは思えないほど鮮明で明らかに現実でもない世界が視界が広がった。
ローテーブルのような物がひとつあるだけの部屋で、自分が初めて明晰夢を見ていることに気付き、咄嗟に「空が飛びたい」と念じた。
すると身体がゆっくりと前方に一回転しながら浮上した。
本当に明晰夢だ!と驚きすぐさま次の願望を念じた。
「エッチしたい!!!!」
とにかく性行に及ぶイメージを強く念じた。
しかし男の夢は叶わず、身体の浮遊感が次第に失われていき、覚醒へと近付いていることを悟った。
せっかくの明晰夢体験が終わってしまうことに焦り、惜しいがエッチを諦めて意識を睡眠に集中した。
視界が消えてただ真っ暗な世界になった。
自分がまだ眠っているのか分からない、夢の中なのか瞼の裏が見えてるだけなのか。
そんな混濁した意識の中で俺はただエッチな夢が見れなかったことが悲しかった。
願望が叶わなかったのは実体験の乏しさが原因なのだと反省し、どれほど時間がたったか分からないが、急に真っ暗なトンネルを高速で飛んでいるような感覚が襲ってきた。
視界に変わりはなかったが、自分の身体に強い風が当たっている感覚が確かにあり、いつもとは違う特別な夢を見ていることを再認識した。
数十秒程度同じ感覚が続いたところで夢が完全に醒めてしまった。
まだもう一度夢に入るチャンスがあるのではないかと思い、決して目を開けず、自分の身に起こった不思議な出来事を思い返した。
その時、手や足の感覚が薄かった。
いつの間にか眠っていた俺は目覚ましの音でいつもの時間に起床した。
朝の支度をしている最中にふと夢のことを思い出した。
普段の夢と同じように、ふとした切っ掛けで夢の中の出来事の断片を思い出し、そこから手繰るように全体像を思い出していった。
夢の中だったとはいえハッキリと意識のある状態だったのに、普段の夢と変わらず忘れかけていたことに驚いた。
もしかしたら、明晰夢を見たことすら夢のできごとだったのではないかと不安になる。
確かに自分は夢の中で自分の意識で宙に浮き、風を浴びたはずだと、記憶に問いかければ問いかけるほど、思い過ごしだったのではないかと不安になってくる。