待ち合わせに1時間遅れてきた女は、いかにも急いで家を出てきたというような軽装で、顔を見ると同時に目に入るのは首筋の内出血痕。女を自分の所有物だと主張するため、俺の知らない誰かが付けた傷痕。

一月前に一度マチアプ経由で会ったきりの同世代の異性が急に家に泊めて欲しいと連絡してきて、なし崩し的に泊めることになり、同じ布団で眠った。(全年齢版。いや、R15?)

ハグしてもらった、すごい安心した。これが欲しかったものだと確信しました。
一応、添い寝以上のことはないか聞きました。すごい勇気がいりました。今日はないと言われました。犯罪者にはなりたくないから手は出さないと言うと、合意はないとね、と流された。彼女はただひたすらマジで眠そうだった。
緊張して眠れないと零すと心臓の鼓動を確かめるために俺の胸に手を置いて鼓動を確かめてきた。彼女からの接触はこれっきりだった。
部屋の電気を消した状態で向かい合わせで抱き合ったり、手を繋いだり、俺が後ろから抱き締めたり、ゆるく手で胸を撫でたり。(下着越し)
シンプルにいびきがまあまあうるさくて3回くらい枕を使わせるために起こした。ハグが終わったら俺に背を向ける姿勢を終始保ちながら眠っていた。
彼女いたことないのに異性と一緒に眠るなんて緊張して仕方ないと言ったら、童貞か聞かれてそうですと言うと今度ホテル行こうねって言われた。今度なんてあるんだろうか。
対して面識がなのに就寝を共にする間柄ってなんだろう?と問うと友達だと言われた。だから俺もそれを受け入れて、彼女の名前を初めて呼び捨てで呼んだ。
生きる世界が違うし端から彼女に対して恋愛的な思いは一切無かったけど今回の接触で危うく期待というか好意を抱きかねない状況だった。きっとこれはワンチャンを感じたから抱いた好意で、絶対に不純なものだ。彼女にはお金持ちじゃないと嫌だと言われた。元よりそんな気持ちはないよ。
顔をこっちに向けてくれたら、あわよくばキスを頼んでみようと思ってバキバキしてたけど叶わず。
1時頃に一緒の布団に入ってからモゴモゴして、結局眠りにつけたのは3時半以降だった。一度トイレ休憩を挟んで夜景を見ながらCBDを吸っていた。
俺が無理矢理手を出してくるような人間じゃない、要はただ都合のよさげなチキン野郎だとお見通しだったんだな。
ずっとずっとハグしていたかった。心が充填される感じ。時期が時期ならハグだけで号泣していたと思う。意外にも昨日は泣かなかった。少しは泣けると思ってたのに。
夕飯代とお酒代含めて6千円程度だったので奢り分は3000円程度。最初から俺は金がないと釘を刺しておいたのもあって安く済んで良かった。
ふとした瞬間に「なんだこの女…」って思うんだけど、話してくると声がかわいいのよね。最悪。
コンビニで買ったビール2缶を半分ずつ空けて顔真っ赤にして22時頃に倒れるように眠ってしまった。俺はまだ全然眠くなかったので友達がやってたナイトレインに無発声で参加して深き夜のリブラにボコボコにされまくった。

彼女の話はどれも俺の人生とスケールが違いすぎてずっと何言ってんのか分からない。
韓国で殺し屋に狙われたとかどこぞの社長の息子と知り合いだとかどっかのアイドルと繋がってるとかビットコインで儲けたお金を全部出資したとか。
家のもの盗って朝居なくなったりしないでねって言ったら、「○○(一人称)そんなことしたことないよ。」と甘い声で言われた。根拠はないけど信用してしまう魔力があった。とはいえ、家に帰ったら一応ちゃんと確認しておかないと。

朝、二人で電車を待ってるときに「このままホテル行かない?」って言ったら行けてたのかな…。馬鹿マジメに出社してきてしまって後悔してる。なんでよりにもよって週に一度の出社日が今日なんだよチクショウめが!
ドキドキしてまったく眠れなかったけど誰かと一緒に寝るのは心理的にすごい安心できてよかった。後ろから抱きついたときとかもすごい安心感あった。幸福だった。

帰宅した。当然、誰も居ない部屋に一人で帰ってきた。
飲みかけのビールとお菓子が置いてある。紛れもなく彼女が昨日ここに居た証拠。
寂しい。ひたすらに寂しい。慣れたワンルームがとても広く感じる。
せっかく最近メンタルが安定してきていたのに、俺がずっと欲しかったぬくもりを急に与えられて直ぐ様取り上げられた。
昨日の出来事は甘美な毒のようなものだったと思う。
情けないから自分から彼女に連絡はしない。正直、心待ちにしてはいるんだけど。
でも、しばらく彼女の形跡は片付けないでおく。
この日は一人で眠るのが辛くてしょうがなかった。本当に辛い。寂しさで狂いそうだった。
狭い布団で身を寄せ合い伝わる相手の体温。触れ合う箇所から感じる、呼吸の度に微かに動く体の揺れが心地が良かった。
窮屈さがこんなにも愛おしいとは。
早く死にたい。



こんなこと本当に現実にあるんだなって。東京って怖いね。